葦書房

葦の葉ブログ



2018/5/11
国会のなすべき事
久本福子

昨日、柳瀬元首相秘書官に対する参考人質疑が、衆参両院で実施されました。一部やり取りを聞きましたが、余りにも些末なやりとりの連続に驚き、あきれるばかり。真実は細部に宿るというのも真理の一つだとは思うものの、与野党が国会審議を通じて明らかにすべき真実はただ一つ、獣医師会の反対で50年以上もの長きに渡って、獣医学部の新設が認められずにいるという、強固な岩盤規制が存続しつづけているという事態が、社会的公正性、公平性などに照らして、正しいのかどうかという点にあるはずです。そして、獣医学部が皆無である四国に、初めて獣医学部が新設されるということが、きわめて不当な地域エゴなのかどうかということも、合わせて真剣に審議されるべきです。

 獣医学部新設のため元加戸愛媛県知事がいくつもの大学に誘致行脚をつづけたものの、手を挙げてくれたのは加計学園だけであったということと、加計学園の理事長が安倍総理の長年の友人であったということは、偶然のことであったということはまず明確にしておくべきだろうと思います。今治市は2006年頃から獣医学部の誘致活動を始めましたが、この活動が政治の場で初めて動き出したのは、民主党政権下であること、愛媛県選出の加藤敏幸氏や、加計学園本部のある岡山県選出の江田五月氏などの民主党の国会議員や、その後枝分かれした民進党の高井崇志氏(岡山)などによって実現に向けた働きかけが続けられたものの、政権交代などの政局混乱により頓挫したという事実にも目を向ける必要があるはずです。(:参照加計学園 獣医学部設-時系列まとめ

民主党政権下では、獣医師会の強固な岩盤規制を崩すことは不可能だっただろうとは思いますが、もし民主党政権下で加計学園の獣医学部新設が認められていたならば、岡山や愛媛出身の民主党議員の尽力によって実現したことになるわけですが、この事実が広く知られても、おそらく誰も我田引水的な政治力の私的行使だなどと非難はしないはずですし、自民党からもその種の批判は出ないはいず。

 こうした獣医師会との長い闘いの歴史を振り返るならば、安倍政権下で50年ぶりに、たった一校しか認められなかったとはいえ、加計学園の獣医学部の新設がやっと実現したことに対しては、与野党そろって寿ぐべきではないでしょうか。たった一校しか認められなかったのは、強い抵抗を示した獣医師会との妥協の産物でした。安倍政権下の国家戦略特区でさえ、獣医学部がたった一校しか認められなかったというのは、獣医師会の岩盤がいかに強固なものであるのかを物語っています。この堅い岩盤を突き崩すには、安倍総理と加計孝太郎氏とが友人であったという個人的な関係が、多少なりとも影響したであろうことは否定はできないと思います。しかしそれが絶対悪だと言い切れるのかどうか、冷静に考える必要があると思います。また、15回も申請して否認され続けてきた今治市や加計学園に対し、官僚なり、政治家なりがアドバイスをするのは当然のことではないでしょうか。

今治市と加計学園は、特区制度を利用して、15回も繰り返し繰り返し獣医学部開設を申請しつづけますが、既得権益と闘う意思などほとんど感じられなかった福田内閣では却下され、獣医師会の強力な支援を受けていた麻生内閣では当然のことながら却下され、民主党政権になって初めて、関係自治体出身の政治家が動いてくれたものの政権が短命に終わり、頓挫。その後に安倍晋三氏が総理大臣になり、しかも政権が安定的に続いたことは、今治市と加計学園にとっては、偶然の巡り合わせだったとはいえ、非常に幸運だったと思います。この偶然の巡り合わせがなければ、獣医師会が50年以上も維持しつづけた岩盤規制には、たとえわずかでも切り込むことは不可能だっただろうと思います。

むしろ問われるべきは、これほど強固な岩盤に護られてきた日本の獣医学研究が、何か世界的に目覚ましい研究成果を上げてきたのかどうかではないでしょうか。獣医師会が、50年以上も獣医学部の新設に反対し続けてきたのは、質を維持するためだというのが表向きの理由ですが、その堅い保護膜で護られてきた日本の獣医学研究は、その狙いどおりの高水準の世界最先端の学術成果を上げてきたのでしょうか。未だかつてその種のニュースは見たことも聞いたこともありませんが、国会では是非その実態を調査していただきたい。これこそが、加計学園問題に対する国会のなすべき基本的な仕事ではないでしょうか。

 本質をはずれたうんざりするようなやり取りが待っていた国会がやっと再開した9日には、日中韓首脳会談が開かれました。中国の李首相、韓国の文大統領とも就任後初の来日であり、史上初の米朝首脳会談を前にした3カ国の首脳会談ですが、日本の国会は全く関心すら示していません。マスコミや識者は、日本は朝鮮半島問題では蚊帳の外に置かれていると批判するのであれば、全く関心すら示さない、政治的鎖国状態にある国会そのものを厳しく批判すべきでしょうね。

 しかし国会が無関心を続ける中、安倍総理は李首相と日中会談を行い、民主党政権下でなされた尖閣諸島国有化以来途絶えていた、経済、政治、軍事、文化など様々な分野での日中交流事業の再開やに関する様々な協定や覚書を取り交わしています。トランプ大統領による厳しい中国批判も、日中の関係改善に寄与した面もあるとはいえ、安倍総理の仕事として冷静に評価すべきだろうと思います。(参照:日中首脳会談共同記者発表全文)

また、米朝の首脳会談に向けた準備も着々と進みつつあるようです。北朝鮮は、一昨日訪朝したポンペオ国務長官に対して、拘束している米国人3人を解放することが米朝首脳会談の大前提だとする米側の要求に応えて3人を解放し、米朝首脳会談の成功をうかがわせるような雰囲気が漂っています。

 実際に米朝首脳会談が成功するかどうかは、事前の予測は難しいとはいえ、日本も無縁ではありえない戦後の世界史に画期をもたらすことになりそうな動きに対して、日本はどう対処すべきなのか、与野党が国会で論議を深めるべき重大テーマの一つだと思われますが、国会は全く我関せず。全て安倍政権、安倍総理に丸投げ、あるいは白紙委任状態です。

 というような事態ですが、目下の日本は、対外的な問題以外にも多々難問が控えています。

 直近の出来事としては、鹿児島、宮崎両県の県境にある、霧島連山のえびの高原(硫黄山)で250年ぶりの噴火がありましたが、噴火後しばらくして、両県の川で基準値の200倍もの高濃度のヒ素が検出されました。川も白濁。これまでも日本各地で火山の噴火が相次いでいますが、ヒ素が検出されたとのニュースは見たことも聞いたこともありません。日本には地震や噴火に関する古記録が多数残されていますが、それらの古い記録にも、噴火に伴って猛毒様の物質が噴出したとの記載もないのではないか。あれば話題になっているはずですが、一度も見聞きしたことはありません。

 しかも非常に不可解なのは、人命に即関わる猛毒のヒ素が一帯の川を汚染しているというのに、専門家や専門機関は全く動いておらず、鹿児島と宮崎などの地元任せで放置されていることです。少なくとも、鹿児島大や宮崎大など地元の大学の専門家がすぐにも調査を開始すべきはずですが、それすらありません。専門家の出動を妨害する何か障害でもあるのでしょうか。専門家の調査が行われていないこともあり、ヒ素流出の原因は不明で、硫黄山噴火との関連も不明だというのが、今現在明らかになっている全てです。他にもカドミウムなどの猛毒物質まで検出されているという。

 突如猛毒に襲われた周辺の農家は、田んぼが使えず今年の稲作はやむなく中止。農水省はその被害保証はするそうですが、肝心の原因解明にはどこも動いていません。これほど不可解で恐ろしいことはあるでしょうか。火山噴火ではヒ素が噴出することは珍しくはないようですが、基準値の200倍もの高濃度のヒ素の例は、これまでその種の報道に接した記憶はありませんので皆無のはずです。約一月ほど前に、あるいはそれ以前からも、同じ霧島連山にある新燃岳が何度も噴火していますが、ヒ素の噴出は一度も報告されていません。

なぜ硫黄山の今回の噴火後にのみ、高濃度なヒ素などの猛毒物質が検出されたのか。国は早急に調査すべきではないか。政府が放置しているのであれば、野党は国会で政府の怠慢を追及すべきではありませんか。事は人命に直結する事態です。この高濃度のヒ素の総量は不明ながら、やがて海に流れ出ていくわけですが、海の魚貝類が汚染し、人体に循環することにはならないのかも気になります。ヒ素は有機化されると毒性は無害化されるとの解説はありますが、ヒ素の量が大量であったり、高濃度であったりすると魚貝類自身も死滅することは、白濁した川で魚が大量死していたことからも証明済みです。

 あるいはこの魚の大量死は、ヒ素が原因ではないのかもしれません。魚を調べればすぐにも原因は判明するはずですが、今のところ誰も、どこも調査していません。そのうち魚は腐って、調査もできなくなるのではないか。専門家が全く姿を見せない、沈黙しているのは、科学者が対応しうる範疇を超えた事態だからなのでしょうか。だとするならば、政治家が動くしかないわけですが、日本の国会議員は与党も野党も、国民の命に直結する危険な状況を放置して平然としています。野党は安倍政権を倒して政権を奪取すること以外一切眼中にない状態です。

 もう一点、諫早干拓地をめぐる問題も、早急に国会で審議していただきたい。これまでは開門を求める漁業者側と反対する営農者・国・県との対立が続いていましたが、農業者にも諫早干拓地でのギロチンが被害をもたらしていることが明らかになりました。営農者が開門請求へ 賠償提訴の2農業生産法人 

 ギロチンと呼ばれる巨大な門=壁で海を仕切り、その中に調整池を作り、海水を淡水化して農業用水として使うことにしているようですが、淡水化した結果カモなどの野鳥が次々飛来し、農産物を食い荒らしているという。その被害者である2農業法人がその損害賠償を求めて裁判を起こしているわけですが、原告側は被害の賠償ととともに、海水を入れるための開門を要求しています。開門要求は漁業者と一致していますが、長崎県も国もこの要求を拒否しています。農業被害は4000万円にも上るそうですが、賠償請求額は200万円と非常に控え目です。請求額が高額になれば、それに応じて原告が負担すべき裁判費用も高額化しますので、負担額を抑えるために請求額を抑えたのではないかとも思われます。

 そもそも干拓地そのものが、海水の浸潤により泥濘化し、新しい土を入れなければ使えないほど状態は悪化していましたが、農水省は税金を使って泥濘化解消に動いています。さらに調整池の汚濁がひどく、もっと強力な浄化装置の導入を要求している農業者の言い分をそのまま認め、農水省はここでも税金を投入しています。調整池の汚濁した水はそのまま海に戻され、彼らは海を汚して平然としていますが、その調整池が農産物への野鳥被害をもたらすという、信じがたい悪循環が繰り返されています。こうした現実を直視するならば、諫早干拓地での農業は破綻していることは明白です。

にもかかわらず安倍政権は、開門を拒否し、今後も永遠に税金を投入しつつこの干拓地事業を維持する方針です。漁業者への保証として100億円の基金が設定されていますが、100億円だけで、漁業被害が解消されるはずはありません。この干拓地ほど税金の無駄遣い例は珍しいのではないか。それでもつづけたいのであれば、農業者は維持費用は税金を使わずに自分で負担すべきです。また、この事業を推進してきた自民党の衆参両院の全国会議員も、歳費の20%を維持費用として提供(寄付)すべきです。汚濁した海でも生息可能な二枚貝の一種のアゲマキが増加しているとの報告もありますが、有明海の再生にはほど遠いのが現実です。

こういう問題こそ国会で審議すべきではありませんか。

HOME